私は日本共産党渋谷区議団を代表して、ただいま議題になりました「議案第29号 新総合庁舎等整備事業に関する基本協定締結について」に反対の立場から討論します。
区長が現在の区庁舎の耐震化を図るために選択した手法は、民間資金を活用した庁舎の建替えでした。提案されている基本協定書は、三井不動産を代表企業とする三社の事業者が区庁舎の敷地4565㎡を70年間にわたって定期借地することと引き換えに、区庁舎と公会堂を建設し区に引き渡すというものです。
区民の安全を守り、福祉の向上を図ることを使命とする区にとって、その拠点施設である区庁舎をどのようにしていくかは、何よりも区民の理解と合意のもとに決められていかなければなりません。しかし、この間の区のとってきた姿勢は、区民には現庁舎の耐震診断の結果も耐震補強工事の方法やその費用も、建替え案の内容などについて全く説明もせず、意見を聞くこともありませんでした。区長は区議会の議決を得て庁舎の建替えを進めているとしていますが、区議会にさえごくわずかな情報しか提供せず、建て替えか耐震補強かの判断を行わせ、十分な審議を保障してこなかったのが実態です。区政の主人公である区民を全く無視したまま、庁舎の建替えとその手法を決定し、民間業者と協定を結ぶことは、自治体本来のあり方からして許されません。
区が提案している庁舎、公会堂の建替えは民間の事業として行われるため、区は事業を円滑に行うとして基本協定を結ぼうとしていますが、協定の内容自体にも大きな問題があります。
第一に、基本協定書の中では、公募により民間事業者が提案した案が基になることが前提とされています。しかし、区庁舎の敷地を定期借地にする際の評価も明らかにせず、5つの建替え案の中から優先交渉権者を決めたり、基本協定書案を審議した検討会の議事録も提示しないなど、区議会にさえ極めて限られた情報しか示されておらず、ましてや区民に対しては全く明らかにされていません。質疑の中で三井不動産の提案を明らかにすることを求めましたが、区は特別委員会に提出した、ごく大まかな建物の配置図と建物の概要だけで、「特別委員会に報告してきた」として、これまで以上の提案内容を明らかにしようとはしていません。基本協定書の中には、さらに秘密保持の条項があり、区は事業者から受領した秘密情報を相手方の承諾なしに第三者に開示できないとして区民が知りたいことも知らせないまま建替えが進められることになります。また、区が直接発注する建設とは異なり、区は事業者と合意した設計に基づいて定める施設性能の要求水準によってしか建設に関与できないしくみであること、区議会や区民の意見を取り入れるとされているのは設計段階のみで、事業の遂行に支障のない範囲でしかなく、しかも事業者にとっての努力義務に過ぎません。このように、区が発注する庁舎等の建替えに比べ、区民と区の関与が大きく後退することは避けられず、事業者中心の計画になっていることは認められません。
第二に、70年間の定期借地権を設定して民間の事業を行わせる一番の問題は、三井不動産が区民の財産を営利事業に活用し、莫大な利益をあげることにあります。三井不動産が区の土地を使ってどういう事業をするかは全く自由であり、実際に行われるマンション事業が、最も収益のあがる事業として進められていくことは明らかです。三井不動産が東京都の土地を50年間定期借地し、警察施設と民間施設を併設する神宮前一丁目民活プロジェクトについて、NPO法人建設政策研究所は「警察施設の整備運営事業を57.2億円で受注することにより、概算で総売り上げ963億円、純収益427億円という桁違いの民間収益事業を行うことができる」と分析しています。同様に区庁舎の敷地を定期借地して進める事業で三井不動産が得る利益は、定期借地したマンション販売と管理などで、庁舎等の建設費として区に支払う対価よりもはるかに多くの利益になります。こうした事業が、区が行うべき住宅事業とは全く無縁のものになることは明白です。区民の土地は区民のために利用すべきであり、三井不動産に自由に使わせて莫大な利益をもたらす民間資金活用の庁舎建替えは、区民福祉の向上を責務とする区がとるべき手法ではありません。
第三に、この協定によって庁舎の敷地の使用が制限される期間は70年の定期借地期間に加え、建設や定期借地期間後の解体期間まで含まれ長期にわたるものとなります。長期間の定期借地権設定は、事実上は期限のない貸付と変わるものではありません。区はこのような民間資金活用による庁舎建替えは、他の自治体に例がないとしながら、区長をはじめ、区議会議員の誰一人として責任を持つことができないような長期間を拘束する基本協定を結ぼうとしているのです。こうした基本協定の締結は、孫子の世代まで区民の利益を大きく損ねるものであり、認められません。
日本共産党渋谷区議団は、庁舎の耐震化を速やかに行うためにも、複数の事業者から提案を募集してまず補強工事を実施すること。また、将来の庁舎のあり方を検討するために、住民、職員、専門家の参加で庁舎あり方検討会を設置し、将来の建替えも視野に入れた検討を行うことを提案してきました。庁舎を区民共通の財産として住民参加で決めることは、最も区が大切にすべきことであり、区長が区民無視で民間資金による庁舎建て替えに突き進むことは認められません。
以上、新総合庁舎等整備事業に関する基本協定締結について反対する討論とします。