9月27日の第3回定例会中間本会議で、渋谷区いじめ防止対策推進条例についてトマ孝二議員が、公益的法人等への職員の派遣等に関する条例の一部を改正する条例については田中まさや議員が、それぞれ反対の討論を行いました。
私は、ただいま議題となりました 議案第37号 渋谷区いじめ防止等対策推進条例について日本共産党渋谷区議団を代表して、反対の討論を行います。
当区でいじめ防止等対策推進条例を制定するにあたっては、全国各地の取り組みから学ぶことが重要です。昨年11月には町田市の小学6年生が、今年2月には旭川市の中学2年生が、SNSなどによるいじめにより自殺に追い込まれるという痛ましい事件が起こっており、こうした教訓を十分に生かして条例に反映させることが求められています。
いじめは区内の小中学校でも起こっており、子どもや保護者、教職員、いじめ問題にかかわる多くの専門家などの意見を十分に聞き、条例を生きた効果的なものにしていくことが重要です。また、条文については一つ一つ吟味し、区民の納得を得ながら進めていくことが何より大切です。
ところが本条例は、平成25年に制定された「いじめ防止対策推進法」の条文をなぞったもので、当区の子どもや保護者、教職員とともに深く検討を行って作成されたものではありません。
第一の問題は、第6条の(学校及び学校の教職員の責務)で、「学校及び学校の教職員は、基本理念にのっとり、いじめは重大な人権侵害であって決して許されないものであるとの認識」に立ちながら、その責務については、「学校の教育活動全体を通じて児童等に対しいじめの問題に関する啓発、指導を行うこと」と定めているだけで、児童・生徒の人権を守っていく教育活動の内容についての記述はありません。
いじめをなくすためには、一人ひとりの子どもが人間として尊重され、安心して生活できるようにするための教育活動が強く求められます。そして教育活動は、学校・教職員が主体的に判断して進めていくことによって成果が上がっていくものです。それだけに、学校・教職員の自主性を尊重し、一人一人の児童・生徒の言葉に耳を傾ける誠実さ、困っている状態を理解し共感する温かさをもって児童・生徒の人権を守っていく教育活動の在り方を明記することがもとめられます。2012年に制定された岐阜県可児(かに)市の条例は、憲法と子どもの権利条約の立場に立って、「学校は、子どもがいじめをなくすために主体的な行動をとることができるよう、子どもに対して、人権に関する教育を行います」と定めています。本区でも学校の責務として人権に関する教育を明記すべきです。
第二の問題は、第7条の(保護者の責務)第1項で、「保護者等は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うよう努めるものとする」と定めて、いじめを家庭の責任としていることです。
多くの保護者はいじめをしない子に育ってほしいと願っています。それをどう果たすのかは、保護者が主体的に考え、自主的に行うもので「規範意識を養うための指導」を行うように一方的に条例で命じるものではありません。
いじめをしない子に育てるには、家庭の深い愛情や精神的な支えのもと、親子の会話や触れ合いで信頼を深めることなどが重要で、規範意識の指導だけを強要するやり方は間違いです。
また、第2項で「保護者等は、その保護する児童等がいじめを受けた場合には、適切に当該児童等をいじめから保護するものとする」と規定しています。
しかし、いじめを受けている子どもの多くは、はずかしい、親に心配をかけたくない、自分をみじめな存在と認めたくない、あるいは知らせたらいじめがよりひどくなる、などと思っており、保護者が心配して聞いても、ほとんどの子どもは、「大丈夫」などと言って本心を言えないものです。実際、町田市の保護者は報道で、わが子がいじめられ苦しんでいたことを死ぬまでわからなかったと述べています。
したがって、いじめられている子どもを発見した場合、学校側は、いち早く保護者に知らせ一体となって解決にあたるべきです。
ところが、本条例は保護者に対し、「いじめをうけた場合には、適切に当該児童をいじめから保護するものとする」と一方的に責務を押し付けるだけの条文となっていることは、きわめて不十分と言わなければなりません。
第三の問題は、当区でも230件のいじめが発生し、その中には、重大事態である不登校となった子どもがいる状況の中で、いじめについて徹底的な議論を尽くし、条例を実効性のある内容にしていくことが重要であるにもかかわらず、議論が全く尽くされていないことです。
実際、本条例についての文教委員会質疑の答弁では、教育委員会での本条例の審議は2回だけで、時間も15分程度ということでした。
また、本条例は、区民に広く周知し、地域ぐるみでいじめをなくすために制定すべきものです。したがって子どもはもとより、保護者、教職員、専門家、地域住民など広く意見を求めることが不可欠です。条例が提案されていることを知った児童委員からは、「私たちの声もぜひ聴いてほしかった」という声も寄せられています。そうしたこともせず、条例を拙速に制定することは認められるものではありません。
日本共産党渋谷区議団は、一人一人の子どもの人権を尊重し、保護者・教職員、専門家等と協力し実効あるいじめ対策をすすめることを求め反対討論とします。
私は、日本共産党渋谷区議団を代表して、議案第34号公益的法人等への職員の派遣等に関する条例の一部を改正する条例に反対の討論を行います。
本条例案は、一般社団法人渋谷ユナイテッドに職員を派遣するための条例改正です。
渋谷ユナイテッドは、区が新たに設置し、中学校の部活動についての学校の負担軽減や生徒のニーズに柔軟に応えるため、学校単位から地域単位に段階的に移行するとして、職員を派遣し、運営費等を支出するものです。体制は役員6人と事務局4人で、事務局2人を区から派遣しようとしています。
当面は、フェンシングやパソコンなど9種目を実施し、将来的には民間企業からも出資を受け、資金面でも区から独立した運営を行おうとしています。
(1)反対の第1の理由は、中学校の部活動を、民間団体に担わせることは、渋谷区の公教育に対する役割を放棄することになるからです。
中学校の部活動は、本来全人格的成長をめざす学校教育の一環として行われるべきものです。学習指導要領には、「学校教育の一環として教育課程との関連が図られるよう留意すること」と明記しています。公教育の責任で行うべき部活動を民間団体に行わせることは、渋谷区が子どもの発達と成長に直接責任を負わないことになります。
質疑の中で、当面は区から運営費を支出していくが、将来的には、財政的にも区から独立する方向が示されました。また学校や教育委員会と連携するとの答弁がありましたが、それを担保する仕組みや保障はありません。運営主体が学校や教育委員会から民間団体に移れば学校教育の一環としての位置づけが後退することは明らかです。
(2)第2の理由は、学校の負担軽減や生徒のニーズに対応していないことです。
部活動について学校の負担軽減や生徒のニーズに柔軟に対応する方向性は当然です。しかし渋谷ユナイテッドの設置が、学校の負担軽減にも部活動への支援にもつながらないことが質疑でも明らかになりました。
学校の負担軽減については、部活動の顧問は現在140人いるとのことですが、どの程度の軽減になるかは不明との答弁でした。
実際、現在実施されている部活動は、運動部系が13種、文科系が15種ですが、その内、渋谷ユナイテッドで実施するのは、運動系のボウリング、サッカー、テニスの3種目だけで、多くの学校で実施している野球やバレーボール、バドミントン、バスケ、吹奏楽などは入っていません。これでは部活動支援にはなりません。さらに、渋谷ユナイテッドで実施する他の6種目については、競技団体の支援や指導員が確保できているものだけであり、負担軽減や子どものニーズは名目でしかありません。
(3)第3の理由は、部活動に責任を負う教育委員会では一度も議論されず、子どもや保護者、学校関係者の声も聞かないで、トップダウンで進めていることです。
渋谷ユナイテッドで部活動を実施することについて、部活動に責任を持つ教育委員会では一度も議論されていないことは、極めて重大です。また学校や部活動単位での話し合いも行われていません。教育委員会も当事者にも議論を深めないままで、渋谷ユナイテッド設立ありきで進められています。また、区議会の文教委員会には、この問題については報告もされていません。余りにも拙速で、トップダウンです。
子どもの成長・発達にとって極めて重要な部活動の在り方については、教育委員会が責任をもって、子ども、保護者や学校関係者の意見を丁寧に聞き、本来の教育目的を達成する立場で議論を深めるべきです。
(4)第4の理由は、民間企業の儲けや投資の場になりかねない団体に区の職員を派遣することは許されず、区議会や区民の声も届きにくくなるからです。
渋谷ユナイテッドは、区からの職員派遣だけでなく、運営費については区が全額支出して設置されますが、将来的には、営利企業も含めて民間からの資金だけでの運営をめざし、大人や区外者も利用できるようにするとの答弁がありました。こうした方向をすすめれば、教育委員会や学校との連携はいっそう薄れ、教育目的よりも企業のアピールや儲けが持ち込まれる可能性もあります。運営費や職員を派遣している間は、区議会も一定のチェックはできますが、純粋に民間になれば区議会のチェックはなくなり、区民の声も届かにくなります。
以上の理由から、本来学校教育の一環である部活動を外部の民間団体である渋谷ユナイテッドに委ねることも、そこに区の職員を派遣することも認められません。
以上、反対討論とします。
学習指導要領
ウ 教育課程外の学校教育活動と教育課程の関連が図られるように留意するものとする。特に,生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化,科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵かん養等,学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。
その際,学校や地域の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い,持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする